2022.06.09

誰もが知ってる大手企業の半導体研究開発者だった彼が
バーテンダーに転職した理由

理系の工学部大学院で科学の研究に明け暮れ、半導体のメモリ開発をしていた。31歳の若手バーテンダーは、興味があることはとことん調べる研究者気質。

「日本一、バーテンダーっぽくないバーテンダーだと思います。」
そうはにかみながら語りだしたのはbar hotel箱根香山のバーテンダー、中里さん。
バーテンダーなのに、事前アンケートで職業を教えてください。の項目には、バーテンダー(?)と書いてあった。

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バーテンダーに転職した理由
Summary
  1. アメリカで感じた、自分の壁
  2. 人生を変える人との出会い
  3. 製造業とカクテルづくりは マーケティングの観点で同じ!?

アメリカで感じた、自分の壁

出身は青森の八戸市で東北大学の工学部の大学院卒。学生時代は科学やメモリの研究に明け暮れ、卒業後新卒で入社したのは誰もが聞いたことがある大手企業。

半導体のメモリ開発に携わる期待の新人だった彼は、何度かアメリカ駐在も経験した。そこで大きな衝撃を受けた。

 

〈アメリカではカリフォルニアのアマドール郡のワイナリーにも行った〉

 

「駐在先のアメリカには世界中から集まった同世代がいて。優秀な彼らを前にして今の自分では太刀打ちできないと、刺激になりました。自分は大学院卒で博士号を持っているけれど、彼らは2つ3つ博士号を持っている。今の自分は全然勉強が足りないと実感。

もっと伸ばしたいと思って毎日ビジネス書、マーケティングの本を読み漁ったんです。研究は好きだし、わからないことがあることが嫌で。

まあ、常に努力をしていたから、優秀な人たちも追い越したんですけどね。」

 

根っからの負けず嫌いの性格をちらっと覗かせ、いたずらっぽく笑った。

 

結果を出し評価もされ、仕事に余裕が出てきても、いつもどこか満たされない気持ちが続いた。

もともと研究者気質な彼は、自分の気持ちの根源、その原因は何なのか。という思いを無視はできなかった。このままこの業界でやっていくのかな。その先に何があるのかな。。

ピンと来ていない何かを感じていた。

〈家には本がたくさん〉

人生を変える人との出会い

26歳の時、当時の職場に近い鎌倉に出入りするようになった。

鎌倉で遊びたい。というよりも、そのおしゃれな雰囲気に惹かれた。

ある時、知り合いに「ここのカレーはおいしいよ。」と、紹介されたレストランにフラッと一人で行ってみた。カレーを食べに行ったはずだったのに、そこはレストランバーで、本格的なバーカウンターがあった。

興味本位からバーでカクテルを飲み始めた。

そこに通うようになって、バーの面白さにはまっていった。そんな彼をいつもバーカウンターで迎えてくれたのは、現在、bar hotel箱根香山で彼の上司であるバーテンダーの天野さんであった。

 

 

製造業とカクテルづくりは
マーケティングの観点で同じ!?

バーに通ううちに、お酒、カクテルにどんどん興味を持っていった。興味といってもカクテルのおいしさではなく、その工程。

 

「お酒やカクテルに興味を持ったのは、いろいろ考えてできているということがわかったからなんです。

製造業って2年くらいかけて商品ができて世の中に出るから、本当に良い製品をつくれたのかなって声を聞けるまで時間がかかるんです。

でもね、バーカウンターはお酒を出して、お客様が口に入れた瞬間で勝負が決まる。フィードバックまでが3分以内。そのスピード感が面白いと感じました。」

 

もともと、0を10にするより、1を10にする方が得意。

企画、品質保証の製造物開発、バーはカクテル開発という点で共通。

 

「どうやって売り込むか?という企画をやりたい」興味がある人をつなげる仕事はおもしろいと思った。もともと興味があるマーケティングの観点で見たら、お酒の持つオリジナリティ、自分の商材をどう売り込むか?ということに興味を持ち始めた。

 

大手企業の半導体の研究者だった彼の運命は、お酒への興味と、天野さんとの出会いにより大きく変わった。

 

やると決めたら早かった。

大手企業を退職、バーテンダーの経験ゼロでbar hotel箱根香山の開業に携わった。

それまで接客とは無縁だった生活なのに、bar hotelではホスピタリティの研修をはじめ、清掃、システムと覚えることが膨大にあった。もちろん家でもホテルでもお酒の勉強もし、開業から3か月後にはバーテンダーデビューをした。

 

現在バーテンダー歴は4年。バーテンダーの中では新人。

もともと勉強熱心で努力を怠らない彼だから、家でもカクテル作りの材料や道具を購入して、ひそかに新カクテルの開発や、酒造りの練習をしている。目の前の人が喜んでくれるよう、何かおもしろいことができないか?など、常に考えて挑戦している。

 

〈カクテル作りとコーヒーメーカー。好きなものにはこだわりたい〉

 

〈お酒と同じくらいコーヒーも好き〉

 

「バーってなかなか敷居が高いって思うかもしれない。でもね、もっと若手のバーテンダーも力をつけてバー文化を広げていきたいと思ってるんです。将来は独立して自分の店が欲しい。日常の好きな空間で爆発したいから。」

 

現在はバーテンダーだけでなく、マーケティング能力や数字の強さも活かして、ホテルの宿泊プラン作り、在庫コントロールなど数字やシステム全般などを扱う責任者でもある。

 

「日本一バーテンダーっぽくないバーテンダー」と言うけれど、”得意なコト”と”好きなコト”を全力で活かしながら仕事を楽しみ、現状に満足せずに努力し続ける人。というのが話していてわかった。

 

これからどんなお酒をつくっていくのか、今どんな楽しいことを考えているのか、どんな人生を歩んでいきたいのか。興味がある。

またbar hotel箱根香山のバーカウンターで中里さんのつくるカクテルを飲みながら、ワクワクした話を聞きに行こう。

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