レストランがやってくる
「豚肉はフツー65度でしゃぶしゃぶするのがいいんだけど、おじいちゃんおばあちゃん向けだから80度ぐらいでね。あんまりやると旨味が逃げるし固くなるから短めにね」
「これ終わったらこっちの涼しいところ置いといて~」
「これは刻みとミキサーのやつね!」
8月の昼下がり、いつもは(おそらく)静かであろう厨房に、活気ある声が響きわたる。
「小うるさいジジイだよね」と自虐するシェフに対し、
「そんなことないです。すごく優しいです」と調理スタッフたちは苦笑する。
不定期で開催される、“ ココノマの総料理長 ” 菱沼シェフによる出張ディナーは、
高齢者施設ガーデンテラスで暮らす入居者の方々にとって、外食気分を味わえるスペシャルなイベントだ。
「いつもの食事も美味しいんだけど、今日はちょっと特別よね」と ご婦人が微笑む。
テーブルには“おしながき”が置かれ、菱沼シェフから料理の説明が行われる。
食事がはじまってからも、シェフがテーブルをまわり、ひとりひとりに声をかける様子は、
確かに特別感に溢れている。
シェフが各施設をまわることは、単にディナーの提供のみならず、調理スタッフへの教育、厨房の衛生チェックなどの業務も兼ねている。高齢者施設にもホテルクオリティを浸透させる、まさにグループ力のなせるスペシャルな取り組みだ。
食べるを愉しむ
『 誰かのひととき そして生涯をいい時間(とき)に 』
これはシマダグループのフィロソフィーである。
おいしい食事のひとときをつくるのも、私たちの使命。
シェフ曰く「今の入居者は戦後生まれで食に対するこだわりの強い世代だから、その要求を満たせるよう趣向を凝らしている」とのこと。
(ちなみにシェフはバブル世代なのでお金に執着しがちらしく、若い世代は精神的な幸福感を重要視する人が多いらしい・・・)
高齢者施設では通常、安全面に配慮して「なまもの」は出さないが、スペシャルディナーでは、真夏以外はカルパッチョなど、1品だけでも出すよう工夫しているそうだ。
高齢者向けの食事には、通常食に加え、刻み食、ソフト食、ミキサー食、ゼリー食など様々な形状がある。
加齢によって、噛む力や飲み込む力が低下した方が、食事中に誤嚥などのトラブルをおこさぬよう、食べやすい工夫を施す必要があるからだ。
健康状態に応じて食べる物が制限されるのは、年齢を重ねる上で避けられないことかもしれないが、食べる愉しみが減るのは何とも悲しい。
最後の食事まで、可能な限り食べる時間そのものを愉しんでいただけるよう、調理・介護の枠を超え、全ての職員が一丸となり、日々、その ひととき ひととき を作り上げている。
介護×●●=オンリーワン!
ガーデンテラスのキャッチコピーは
『 ホテルのような住空間とおもてなし 高齢者のための新たなる住まい 』である。
ホテル事業を展開するシマダグループだからこその、
掛けあわせによるオンリーワンなサービスである。
事業部の垣根を超え、いい時間を提供したいと願う、
社員・スタッフすべての思いがなせる技である。
これからも、固定観念や既成概念にとらわれない柔軟な発想で
新たな介護のミライを切り拓いていくであろう。
COCONOMA GRAND CHEF
菱沼 欣也 / Kinya Hishinuma
1970年生まれ、福島県出身。幼い頃から、作ること、食べること、そして人に喜んでもらえることが好きで料理の世界へ。
武蔵野調理専門学校を19歳で卒業後、「晴海グランドホテル」で料理人としてのキャリアをスタート。その後、「レストランキハチ」で料理技術を磨き、経営についても学ぶ。2012年10月、ココノマのシェフに就任。
多くの人たちに楽しんでもらえる料理を提供したいと日々研鑽を重ね、現在に至る。