初出場の緊張 ~土屋の場合~
昨年、大根さんが初出場にして、認知症分野で『優秀賞』という快挙を成し遂げた。彼が頑張っている姿を近くで見ていたので、仲間としてとても嬉しかった。
(詳しくはこちらの記事をチェック→宅建試験の裏側でもう一つの挑戦)
会社的にもこれ以上ない最高の結果を残したのだから「コンテスト出場はこれが最初で最後だな」と油断していると、「来年も出るから、頑張ってね!」と、課長。
「奨励賞目指して頑張ります。(汗)」と答える僕に、
課長は「何言ってんの、最低条件が優秀賞だからね!」と陽気に言った。
コンテストこそ出たことはないが、前職では介護技術を披露する昇格試験があった。その当時、勤務後に練習をする生活を1年間繰り返した経験があり、介護技術を披露することの苦労や、とてつもない緊張感を知っていた。
なので、オールジャパンケアコンテスト(AJCC)に出場することをポジティブにとらえる心境にはなれず、プレッシャーと緊張しか頭になかった。
そして数か月後、追い打ちをかけるような連絡が。なんと、昨年よりも2か月早い開催かつ、場所は東京ビッグサイト!タイトなスケジュールと会場のスケールの大きさに、僕は発狂寸前だった。
人生初の東京ビッグサイトが、まさかこんな形でやって来るとは。
会場へ向かう道中、緊張はピークを超え、ビッグサイトでLIVEをするアーティストにでもなったような、意味不明な錯覚を起こし始める。
コンテストが始まると、パーテーションで区切られたスペースで待機させられた。他の出場者の技術を見ることはできないが、声掛けなどは耳に入るし、会場の熱気も伝わってくるので、ドキドキする。
いざ本番!
出場者は、審査委員に声が聞こえるようマイクを取り付けられる。その間に周りを見渡すと、知らない人たちが囲むようにこちらを見ている。
頭は真っ白。心臓はバクバク。「全員僕のファンだ!」と自己暗示をかけた。
あっと言う間に本番終了。
僕が挑んだ課題は入浴分野であるが、練習してきた技術は概ね披露できた。
審査員からは反省点を指摘されつつも、温かい言葉を頂き、安心感と開放感の波が一気に押し寄せてきた。
連覇への重圧 ~大根の場合~
前回は偶然と運に味方され、認知症分野で「優秀賞」を受賞した。
何より嬉しかったのは結果よりも、研修を担当する自分の言葉に自信が持てるようになったこと。その追い風に乗って、自分の考えを多くの人に伝えられたこと。そして、より大勢の前で話すことが得意になった。
認知症という分野は、自分がこれまで特に興味・関心を強く持ち、その感覚で挑んだ結果が評価されたので、素直に嬉しかった。当時の課長も応援に駆けつけ、表彰されるその瞬間まで「優秀賞」を確信してくれていた。
今回は規模を拡大し、東京ビッグサイトという大舞台。どれほどの強豪介護士たちが全国から集まるのか、とても興味をそそられる。
そして、同じ部署の土屋さんも「優秀賞」がマストという目標を課せられての強制エントリー。いつも切磋琢磨している仲間と一緒なのは、ワクワクを増大させた。
前回が「認知症分野」だったため、今回は「看取り分野」を希望した。演技時間10分の中で、高齢者役の表情、しぐさ、言動から心の中を探り対応していく“自分自身の介護観”がどう評価されるかを試したかった。
ところが後日通知されたのは、まったく予想もしていなかった「口腔ケア分野」だった。排泄、入浴、口腔ケアはアイテム数が多く、日々の現場をこなしていないと、ぎこちなさが出てしまう。研修講師や人事業務を主とする今は、正直、自信のない分野だ。
事前に通知されたシナリオに目を通す。
口腔ケアを進めたいが認知症のため理解が乏しい高齢者に対し、どのように尊重と支援をしていくのかがポイントになりそうだ。
認知症面はこれまでの経験から感覚的に対応できたとしても、技術面はそうはいかない。大会に向けて、口腔ケアの知識と技術を武器にできるよう、準備をすすめた。
そして当日。そわそわ落ち着きがない土屋さんと共に、脱水症予防用に配布された塩飴をなめまくる。
いよいよ自分の出番となり、ピンマイクを装着し会場を一通り見渡す。高齢者役やアドバイザー(評価者)の表情、物の配置などから、一瞬で作戦の予定を確定に変えた。認知症をベースに演技をしてくる高齢者役に、雰囲気づくりと適度なタッチを混ぜながら応対。口腔ケアの技術をアピールしようと椅子に座らせ、一緒に行う自立支援を表現。10分間のうち3分もの余力を残して演技を終了した。
アドバイザーから、「認知症にもっと向き合ってほしかった。普段は介護をしているのか?」と聞かれ正直焦った自分がいた。
結果の先にあるもの
緊張と重圧の下で、果敢に挑んだ2人。その結果は……
~土屋の場合~
介護の世界は日進月歩。
社内で研修をする立場であっても「自分の技術が本当に適切なのか」、「今の時代にフィットしているのか」など、自分の技術や介護観を確認できる機会はあまりない。それでも介護士として常に進化していかなければならない。
コンテストに出場することで、審査員に教えを乞い、自分の技術が適切かどうかを確認し、未熟な部分や強みを知る事が出来た。
残念ながら受賞は逃したが、「自分の現在地を確かめる良い機会になった」と感じている。
今回の体験から、社内でも研修の一環としてコンテストを開催したいと考えている。1つの課題に対してどんな介助、声掛けが必要か。みんなで議論し、実際に行う機会を作ることで、共に成長し合える環境を築いていきたい。
~大根の場合~
今、「自分らしく働けている」のは、自分の介護観と会社の目指す方向がマッチしているから。その価値観はブレずに表現できたので、結果に関して悔いはない。
ただ、もちろん反省と課題もあった。
それは「パフォーマンスで乗り切ろう」と甘く見ていたところ。介護は生身の人間相手。表面だけの取り繕う言葉や態度では、見抜かれてしまう。アドバイザーからの「普段は介護をしていますか?」という言葉が、今でも心に残る。
連覇とはいかなかったが、自分はやはり「高齢者の近くにいることが必要だ」と再確認する良い機会となった。
介護の本質は、1人の人と向き合うこと。
『介護を受ける高齢者である前に元気だった高齢者』
『元気だった高齢者である前に1人の立派な成人』
研修講師、そして人事担当として、現職者はもとより、介護に未来を感じている学生、入社を目指す未来の仲間に「本当の介護」を伝えていくことが、私の役割である。
2人が講師を務める「ひばりの学校」では、介護職員初任者研修の資格取得が目指せます!講座の詳細はコチラをチェック→ https://shimada-slp.co.jp/school/