はじめに
日本酒の出荷量は1973年度をピークに減少していて、現在ではその4分の1以下になっています。酒蔵数も減っており、人口減少や高齢化、若者のアルコール離れなど、日本酒業界にとって逆風も多いのが現状です。
でも実は、日本酒は海外での人気が高まっていて、輸出額は直近の10年間で4倍近く増加しています。また、ユネスコが2024年12月、日本酒や焼酎、泡盛といった日本の「伝統的酒造り」を無形文化遺産に登録。ますます注目が高まっています。
吉川醸造の日本酒は海外での評価も高く、「雨降 / YAMAHAI」がイギリスのIWC 2025(純米酒部門)でゴールド・メダルを受賞しました。IWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)は1984年に設立された、世界的に最も権威あるブラインドテイスティング審査会の一つです。その中でもゴールドは各部門の上位約10%しか獲得できない狭き門。
さらに最近フランスで開催されたKura Master 2025では「菊勇 / 辛口純米酒」が純米酒(66%-100%)部門で出品数百本のうちから何と1位に!Kura Masterは毎年パリで行われる和酒のコンクールで、審査員はフランス国家が最高職人の資格を証明するMOFの保有者をはじめ、フランスの一流ホテルのトップソムリエやバーマン、カービスト また レストラン、ホテル、料理学校関係者など飲食業界のプロフェッショナルで構成されています。
伝統と革新が融合する酒蔵「吉川醸造」
吉川醸造のある伊勢原市は神奈川県の中央に位置し、新宿から小田急線で約1時間。別名「雨降(あふり・あめふり)山」とも呼ばれる丹沢大山から平野が広がり、フルーツの里としても知られています。
神奈川県内の他の都市部やベッドタウンと比べて地価が安く、医療環境や子育て支援が充実していることから、住みやすさにも定評があります。
吉川醸造がこの地で100年以上続いている理由の一つは水。丹沢大山に降った雨がゆっくりと沁み込み、長い年月をかけて磨かれ、敷地内の井戸にたどり着きます。吉川醸造では洗米から仕込み水まで、敷地内の井戸から湧き出る水を使っています。
吉川醸造の水は硬水です。一般的には日本酒には軟水が適していると言われるなか、希少な硬度150~160(mg/L)の硬水が個性のある日本酒になり、国内外での高評価につながっているそうです。
働き方が大きく変わった現代の酒蔵
「昔の酒蔵は、とてもじゃないけどホワイト企業とは言えない仕事環境でした」(杜氏の水野さん)
日本酒といえば、杜氏が仕切る職人の世界というイメージをお持ちの方も多いのではないでしょうか。
杜氏(酒造り全般の責任者で蔵人を管理します)の水野雅則さんが吉川醸造に入社したのは2006年。かつては出稼ぎの蔵人と共に朝4時半から夜まで、月に1回休みがもらえるかどうかという厳しい環境だったといいます。
しかし、現在の吉川醸造は大きく変わりました。2020年にシマダグループの傘下に入ったことで経営体制が刷新され、働き方も大幅に改善。現在は地元神奈川県内の社員5名と季節従事者を含めた7名体制で、一般企業と同様に月7〜8日の休暇を確保できる環境を整えています。
「朝が早いとか夜が遅いとかいうのは極力なくすような工夫と努力をして、休みも一般企業様と同じような環境を整えた中で、時代に合った体制でお酒造りに取り組んでいます」(水野さん)
シマダグループ入りで変わったのは働く環境だけではありません。新しいブランドを立ち上げて、味わいも新しくしました。
「お酒造りに関しては、スタートから杜氏である私に一任してくれました。思い描いた通りにトライさせてもらえて、やりがいを感じました。社長の合頭さんや常務の二宮さんをはじめ、みんなでディスカッションしながら、とにかくいいものを造ろうという思いでやっています」(水野さん)
活路を見出すために水野さんが訴えたのは変化すること。新しい経営層もそれに応えます。
「現代の酒造りに必要な設備が揃えられてきたのは、造り手としてはありがたかったです」(水野さん)
挑戦を歓迎する風土
新しい挑戦を積極的に支援する社風の吉川醸造。醸造・蒸留責任者の井内智章さんは前職の酒蔵での安定志向から、より挑戦できる環境を求めて吉川醸造に転職しました。
吉川醸造では、入社1年目に少しだけ余った米で自由に酒造りをさせてもらい、そのお酒がいきなり海外で受賞。その後もロンドン酒チャレンジとKura Masterでプラチナ賞、さらに3期目の今年、国内最大の日本酒コンテストであるSake Competitionで「モダンナチュラル部門」115本中の2位を獲得しました。社歴に関係なく意見が通りやすく、やる気があればさまざまなことにチャレンジできる環境が受賞につながったと言えそうです。
ちなみに吉川醸造はびんにもこだわっていて、ガラスびんアワード2025で最優秀賞を受賞。デザインだけではなく、「一升びんと同じ1.8L容量でありながら、冷蔵庫のドアポケットに収まるという驚き」が評価されました。徹底的に飲む人のことを考える姿勢が受賞につながったようです。
伝統的な製法にもチャレンジ
井内さんが入社後すぐにチャレンジしたのが「水酛」という伝統的な製法です。酵母や乳酸を一切添加せず、自然の菌だけで酒を造る技術で、業界では難しい製法とされていて、高度な技術が必要です。
「醸造協会などの機関でつくられた酵母や乳酸を使うのではなく、何も加えずに自然の要素だけで作れたら面白いなと思ってチャレンジしました」(井内さん)
このような革新的な取り組みがブランド価値の向上に繋がり、CRAFT SAKE WEEKには2年連続で、神奈川県から唯一選ばれています。CRAFT SAKE WEEKは、全国400以上の蔵を訪問してきた中田英寿氏が率いる専門家により厳選された酒蔵と、世界トップクラスのミシュラン星獲得数を誇る日本の超有名レストランが集結する、毎年春に六本木で開催されているイベントです。
SNSと現代的なマーケティング
吉川醸造はInstagramやブログなどを積極活用して、従来の酒蔵にはない現代的なアプローチで認知度を高めています。Instagramのフォロワー数は2万人弱で、スタイリッシュな写真が人気です。
「閉鎖的なイメージのある酒蔵をオープンな存在にしたいと思っています。ホームページもリニューアルしましたし、オンラインストアも始めました。シマダグループになったことをきっかけに、認知度もブランド価値も高まっていると感じます。SNSや直接会えるイベントを活用することで、消費者に私たちの想いが響いている実感があります。その証拠に、CRAFT SAKE WEEKでは当日最速でソールドアウトしました」(水野さん)
社長を筆頭に杜氏も蔵人もSNSやイベントに出て、お客様とコミュニケーションをとっています。ただお酒を造るだけではなく、蔵の外での仕事も楽しめるのが吉川醸造の魅力の一つです。
多様な業務経験を積める体制で一人前に
吉川醸造は役割を固定するのではなく、みんなが色々なことができるような体制を目指しています。酒造りから販売、広報活動まで一貫して携わることができ、夏場にはイベント出展や飲食店での通称”雨降会”でお客様と直接触れ合うことなども経験できます。
「酒造りだけじゃなく、自分の作ったものをちゃんと売る、外に広めるところまで一貫してできたらモチベーションにも繋がりますし、仕事として面白いですよね」(井内さん)
吉川醸造は蔵人を募集中。
職人。物づくり。お酒
「お酒全般に興味ある方は大歓迎ですし、お酒と密接な関係にある食文化に興味がある方にとっても、すごく楽しい職場なのかなと思っています」(井内さん)
吉川醸造では女性も活躍しています。酒造りの現場では女性はまだまだ少ないですが、吉川醸造では女性が働く環境と雰囲気が整っています。
「力仕事もありますが、酒造りに向き合ってしっかりやれる方であれば、性別も年齢も関係ないですね。またお酒に強くなくても全く問題ありません。事実、私も社長も実はあまり飲めないんです」(水野さん)
酒造りのために必要な資質は「何かを育てることに共感できる」「物づくりに興味がある」「変化に気づける」「やる気のある」方です。吉川醸造では、経験は問わないとのこと。
「役割を固定しておらず幅広い経験が積めるので、基本的には3〜4年で信頼される存在にまで成長できます。モチベーションが高い方なら2〜3年でどこに行っても通用する力を身につけることが可能です」(水野さん)
日本酒の世界には伝統的に「一麹、二酛、三造り」という言葉があり、麹づくりから始まって様々な工程を段階的に学んでいきます。職人の世界と聞くとイメージされる「見て覚えろ」ではなく、丁寧に仕事を教えてくれるので、やる気があれば早い段階から責任ある仕事を任せてもらえます。
また、吉川醸造では日本酒以外の製造も計画しており、お酒に広く関わる経験を積めます。
酒蔵の伝統と挑戦
日本酒業界は、昔のイメージとは大きく変わっています。吉川醸造では適切な休暇を確保しながら、やりがいのある仕事に従事できる環境が整っています。
「少人数で作っているので、自分で考えて言語化できる力がある方だったら意見が通りやすい。さらに熱量があればあるほど意見が通りやすいと思うので、それがやりがいに繋がりやすいんじゃないかなと思います」(井内さん)
「酒造りは微生物を管理する仕事です。そのため、何かを育てることが好きな人は向いていると思います。蔵人として一人前になるためには、目配りする力など、経験を積まないと養われない部分があります。そのためにはやる気と、何でも楽しめる心が一番大事です」(水野さん)
酒蔵として伝統を受け継ぎながら、新しい挑戦を続けている吉川醸造。訪れてみて感じたのはチームワークの良さ。フラットな関係性で和気あいあいとした雰囲気ながら、物づくりのプロフェッショナルとしてビシッと筋が通っている。酒造りを志す人はもちろん、物づくりを仕事にしたいと思っている方におすすめします。
日本酒づくりという伝統的な技術を現代的な環境で学び、同時に革新的な取り組みにもチャレンジできる。そんな環境で、あなたも一緒に美味しい日本酒を造ってみませんか。
興味をお持ちの方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。経験の有無は問いません。大切なのは、やる気と学ぶ意欲です。
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