リベンジの理由 ―
「介護士は、かっこいい」と伝えたくて
音声は【コチラ】
今年のAJCCへの出場には、ある熱い理由があった。
当初は、新卒や若手を中心にエントリーを募る計画だったが、誰も手を挙げなかった。
「人前で介護を披露するのは恥ずかしい」
「失敗したら怖い」
――土屋と大根には、その気持ちは痛いほどわかった。
しかし、彼らは思った。
「介護士って、ほんとはめちゃくちゃかっこいい仕事なんだ」
「俺たちでもまだ、ゴールにたどり着けないくらいの介護の奥深さや面白さを次の世代にもっと伝えたい」
「挑戦し続ける背中を、若手に見せたい」
昨年の悔しさを胸に秘めている2人だからこそ、火が付いた。
「なら、俺たちがもう一度挑もう」
その想いが、今年のリベンジの出発点となった。
※去年の様子はこちら
「初出場の緊張」と「連覇への重圧」それぞれの戦いに迫る!
土屋の挑戦 ―
「10分間に詰まった“SLPとしての介護”」
会場が静まり返る。
ステージには散乱したチラシや紙袋、乱れたテーブル。
設定は、「デイサービス出発前、自宅にお迎えに行くと認知症の方が混乱してしまった場面」。
観客席の視線が一斉に土屋に注がれる。
彼は深呼吸をひとつして、目の前の“利用者”に向き合った。
「○○さん、こんにちは。今日の体調はいかがですか。」
――返ってくるのは、曖昧な表情と小さな独り言。
「あれ、私なんでここにいるんだっけ……」
焦らせず、責めず、ただその場を受け止める。
チラシを拾おうとする手を止められ、「自分でできますから」と拒まれても、土屋は笑顔のまま。
「もの忘れが情けないのよね」
「僕だって忘れますよ。昨日なんて台所に行って“何しに来たんだっけ?”って」
会場にクスッと笑いが広がる。
その笑いに包まれるように、高齢者役の表情がふっとやわらぐ。
“介護の正解”は技術や手順ではなく、こうした“心が通う瞬間”にある。
相手の呼吸に合わせながら、散らかったチラシを一緒に片づけていく。
わずか10分間の演技なのに、そこには確かな「信頼関係」が生まれていた。
終了の合図。
大きな拍手が会場を包み、土屋は安堵の笑みを浮かべて一礼した。
――それは作られた演技ではなく、「いつもの介護」をそのままステージで見せた10分間だった。
大根の挑戦 ―
「看取り」を語る
もう一人。大根が挑んだテーマは「看取り」。
“正解がない”ことこそが、この分野の難しさだ。
課題は、入居して1年を迎えた利用者に「限られた余生をどう過ごしたいか」を聞き出すこと。
大根は穏やかに問いかける。
「最期の時間を、どんなふうに過ごしたいですか?」
「やり残したことはありませんか?」
「会いたい人はいませんか?」
入居者が少し照れたように言う。
「死ぬまでに、もう一度故郷に行きたいですね」
その瞬間、大根の表情が明るくなる。
「近頃では介護旅行というサービスもたくさんあります!すぐに手配できますから“行きたい”と思ったときに計画しましょう!」
次の願いはこうだった。
「東北出身ですから好きなラーメンが食べたいって思いますよ。」
「美味しく食べられるうちに食べましょう!施設にシェフを呼ぶ企画はどうでしょう?わくわくしませんか?実現できますよ。任せてください。」
重いテーマを、軽やかに、しかし誠実に語る。ただの相槌ではなく「本当に実現できる」という、目の前の入居者が希望を持てるほど具体性ある提案に、会場の注目を集めていく。
“看取り=終わり”ではなく、“その人らしさを支えること”。そして、目の前の人には限られた時間しか残されていないという現実。
大根の信念が、観客の心にまっすぐ届いた。
発表後、大根のもとには名刺を持った人々が次々と集まった。
「御社では普段からあのような提案をされているんですか?」
「介護旅行について詳しくサービスを聞かせてください」
入賞こそ逃したが、反響は圧倒的だった。
他社からの注目と称賛が、彼にとって何よりの収穫になった。
審査員の評価は得られなかったが、とても優秀なSLPの営業マンだった。
そして、結果発表。
「優秀賞の発表をおこないます。
認知症分野A部門――
シマダリビングパートナーズ株式会社 ガーデンテラス相模大野、土屋貴史さん!」
名前が呼ばれた瞬間、会場に歓声が上がる。
見事、優秀賞を受賞!
審査員からはこう評された。
「認知症の方は“わからない”不安の中にいる。
その不安に対してプラスのアプローチを重ね、
表情が和らいだ瞬間に次の提案へとつなげていく――
それが見事に表現されていた演技でした。」
挑戦の、その先へ。
表彰式を終えた2人の顔には、達成感と誇りがにじんでいた。
勝ち負けではなく、“挑戦することそのもの”が次の世代へと火を灯す。
介護士は、誰かの「できないこと」を代わりに行う人ではない。
「できること」を一緒に支え、その人“らしさ”を守る仕事だ。
「誰でもできる介護職」ではなく、
「誰もが憧れる介護士」へ――。
彼らの挑戦は、介護という仕事の専門性と奥深さ、そして誇りを全国に伝える舞台となった。
そして来年、きっとまた新しい挑戦者がこのステージに立つ。
――その背中を見て、次の世代が動き出す。
それが、シマダリビングパートナーズの介護士たちが目指す姿である。
鎌田(左)・土屋(中央)・大根(右)
▷シマダリビングパートナーズHP
▷2人が講師を務める介護職員初任者研修講座「ひばりの学校」
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