介護に携わるきっかけ
幼い頃からピアノが大好きで、音楽大学ではピアノを専攻。
あるとき音楽療法士を取得するプログラムを学ぶ機会があった。
80名近い大規模施設での実習で、実習生4人で演奏会を行ったところ、
想像を超えるほど喜んでもらった。
音楽が介護利用者に大きな影響を与えること、介護現場で音楽の可能性を強く実感。その時、自分が好きだから続けてきた音楽が、誰かの為になれるのかもしれないと感じた。けれども実際の現場を目の前にして、命に関わる仕事は自分には出来るとは思えなかった。
音大卒業後の進路は限られている。ピアノ講師になるか、教員免許を取得して学校の教員がほとんどで、自衛隊音楽隊へ入隊する人も。しかし、どれも自分にはピンとこなかった。結果、彼女は音楽とも介護とも別の世界に進んでいく。
その時代、世の中はコロナで混沌としていた。それは自身を考え直す機会でもあった。まだ挑戦出来てない事がある。学生時代の実習の事を思い出し介護業界への転職を決意する。転職先は地域密着型のデイサービス。そこでは介護を一から勉強させてもらう。そんな時期に音楽療法の先生から“音楽に力を入れている介護施設がある”と教えてもらう。
すぐに電話をしたところ、見学を受け入れてもらうことになった。
施設の中には大きなピアノや様々な楽器があり音楽に特化したレクリエーションが
展開されている。面接では突然、ピアノを聴かせてほしいとデイルームへ連れてこられ「月の砂漠」を弾く。
なんて面白い会社なんだとわくわくした事をよく覚えている。
短所が長所へ
デイサービスで毎日45分間の音楽レクリエーションの時間を担当。
歌う事で誤嚥性肺炎の予防や嚥下機能の訓練にもなるし、懐かしい曲を歌うことで回想し認知機能へアプローチなど高齢者の方が自然と楽しみながら効果を感じる。イベント時は施設のメンバーで音楽隊を作り演奏会を実施している。
転職をして、介護業界は天職だと感じた。自身の短所は「共感性の高さ」。
人の感情に入り込みすぎ、特にマイナスへの感情へ大きく移入してしまう性質だ。
けれども、介護業界で働くうえでこの性質が短所から長所に変わった。
困っている人や何か訴えありそうな表情に敏感に気付き、その解決策を考え、
トライ&エラーを繰り返している。
先ずは動く。もちろん全てが上手くいくわけではないが、エラーの中にヒントがある。パーキンソン病のある利用者が昔、機織りをされていたと聞き”一緒にやってみましょう!”とアプローチを行った(トライ)。しかしやはり細かい作業が難しい。目も見にくいから難しいと断念する結果となる。始めは利用者を落ち込ませてしまった、、(エラー)の方にばかり考えていたけど
「自分の為に色々してくれて、向き合ってくれてありがとう」
そう言ってもらった時は本当に嬉しかった。
イベントでのコンサート
父の日イベントで施設職員によるコンサートを行った。
打ち合わせは、副施設長が「やってみたい事を挙げていこう!」と始める。
揃っている楽器はピアノ、サックス、クラリネットにカホン。
「私ベースもできます!」「リコーダーやってみたい!」と声があがる。
喜んでもらいたいという同じ目線なので、自然と意見が飛び交う。
本番では涙を流して喜んでくれた方もいて想いが形になった瞬間だと感じた。成功して終わりではなく「ここをもっとこうすれば良かった」と振り返りも皆で行う。
他施設との連携も深く、情報交換をしあって助け合いがある。
この交流が生まれるのも活発な社内イベントや“まなたび”があるからこそ。
先日、海外の“まなたび”初参加。場所はモンゴル。大草原の中のゲルに宿泊したり、乗馬をしたり、相撲大会があったり、、と濃厚な研修旅行で事業部の垣根を超えてグループの多種多様な人達と交流できるのも魅力だ。
”将来的にはどのような自分をイメージしていますか”と尋ねると
「各施設を回り、入居者に音楽を届けられる存在になりたいです!」
シマダリビングパートナーズではグリーンを大切している。
園芸セラピーを精力的に実施しているグリーンパートナーという職種が存在する。
彼女はその音楽版になりたいというのだ。いずれは音楽大学を卒業した後輩たちにこういった道もあるという事を指し示せる存在になりたいとも語る。
やりたいが形になる、自分の「好き」が介護につながり面白い事を創造していける場所だと。
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「最後に何か一曲弾いてもらえませんか?」と、無茶なお願いすると
ほんの少し照れながら彼女は優雅に鍵盤に指を走らせる。
曲はサウンドオブミュージックの『私のお気に入り』(My Favorite Things)
“♪バラをつたう雨だれや 子猫のひげ
ピカピカの銅のやかんや あったかい羊毛のふたまた手袋
紐で結ばれた茶色い小包 それがわたしのお気に入り♪”
美しい音色が響き渡り、心地よいメロディが施設の人々の心を潤す。
その音楽に包まれながら、彼女が語った夢を思い出した。
-入居者に音楽を届けられる存在でありたい-
その静かな情熱が、未来をきっと形作っていくのだろう。
彼女は今日も、大好きなピアノとともに介護の世界でその才能を奏で続けている。
その姿は、まるで一つの楽曲のように誰かの心に深い余韻を残していく。
その余韻が、これからも力強く響いていくように。