序章
「私たち独自の介護ってどんなものなんだろう?」
「『自立支援』と『個性と自己決定の尊重』をとにかく最優先にしていることだよね。」
「そうそう!いかに自由な生活を成立させているか、ということって実は私たちの介護のミソだよね」
「これって、介護でいうところの基礎編ではなく応用編。介護士の手腕が試される感じ」
「出来ることはご自身でやっていただくよう促すんだけど、先回りしてそれが出来る環境をしれっと整えておいたり。短時間で、認知症の方に安心してもらえる寄り添い技術だったり。教科書ではNGとされていることも、ご本人の自己決定を尊重できるようこだわったりね。」
「改めて、、、、私たちの介護ってどうなんだろう?」
「自信を持っていいような気もするし、他と比べてみないとわからないことかも。」
『これ、証明したい!』
「は?証明?」
その会議の翌日、全国の介護士が集結するケアコンテストのエントリー用紙に入力を始めた大根(おおね)さん。
大根さんの「ちょっとした勇気」から、この挑戦は始まった。
大根さんの挑戦
2023年10月15日(日)。
冷たい雨が降る中、「第13回オールジャパンケアコンテスト」通称AJCCが開催されました。
今年で13回目を迎えるオールジャパンケアコンテスト(AJCC)は、「介護の質の向上と地域との繋がりを目指して」という理念のもと、介護に携わる人たちが生き甲斐を感じ、知識や技術の向上を高めるとともに、地域、社会において介護への関心と理解を深めることを目的に、全国から集まった選手(介護従事者)が各分野で、ぶっつけ本番の実技を披露し、この技術を競うコンテスト。
ノリと勢いに任せてエントリーしたものの、どのようなものか、あまり調べず会場に乗り込んでみて早速後悔することに。その規模の大きさと、選手達の「ガチ」な感じは想定を超えていて、急に不安が大きくなるばかり。
さぞや会場の雰囲気に圧倒されていると思いきや、大根さんのこの表情。
「頑張りま~す」の柔らかい安定の大根節。
コンテストは110名の選手が出場し、それぞれ「①認知症」「②食事介助」「③入浴」「④排泄」「⑤看取り」「⑥口腔ケア」「⑦外国人介護士」の7つの分野に分けられ、我らが大根さんが振り分けられたのは「認知症」分野。
また、分野の中でも更に介護士経験5年以上のAチームと5年未満のBチームにカテゴライズされ、例年Aチームはベテラン勢がひしめき合う激戦なのだとか。
こちらが開会式の様子。
ズームアップすると…
ここでもいつもの大根さん(笑)さすがです。
オールジャパンケアコンテスト開始
コンテストが始まると、会場は異様な緊張感に包まれ、見ているだけでも心拍数が上がる独特な空気。
高齢者を演じるモデルさんと選手にはマイクが取り付けられており、ギャラリーと審査員の前で技術を披露しなければならないという環境の中で、平常心を保つことは至難の業であるということは言うまでもありません。
中でも、「入浴介助」や「食事介助」のように明確な技術があるものとは異なり、「認知症ケア」は、何が審査基準となるかは予測ができず会場の中でもひときわ多くのギャラリーが集まっていました。
そんな中…
『エントリーナンバー3番 シマダリビングパートナーズ株式会社 大根さん』
アナウンスを合図に、選手入場。
当日の課題
当日の課題はこちら。制限時間は7分。
認知症ケアにおいて皆様はどのような点に気を付け対応するのが良いでしょう?
是非一緒に考えてみてください。
【岡本まこさん 86歳 女性 要介護2】
・アルツハイマー型認知症(3年前発症)
・息子夫婦と同居
・息子の嫁が財布を盗んだ等の被害妄想がある
・家の中で転倒されることが多く、痣が多くある
・もともと社交的で友達が多い
・若い頃から心配性の性格
【課題】
あなたが働いているデイサービスを利用している岡本さんが、11時に施設の外に出てしまいました。
家族に連絡し手分けして探していると11時50分に近所のバス停にシルバーカーを押して歩いている岡本さんを発見しました。岡本さんの求めているニーズを捉え、デイサービスに帰ることが出来るよう支援を行ってください。
実践
岡本さん扮するモデルさんへ、大根氏が初めて声かけをする様子がこちら。
正直この時点で「これは勝てる!」と確信した、他選手にはないポイントが。
“心配性”の岡本さんが、不信感を抱かないよう少しずつ距離を詰めながら会話を試みる
プロフェッショナルぶり。多くの選手が正面から声をかけるのに対して、威圧感を与えないよう、目線を下げ斜めから声をかけるのは、たまたまではありません。
“息子を探しに行く”という岡本さんに、多くの選手は「息子の事は心配しなくて大丈夫です!」「はやくデイサービスに戻りましょう」と説得を試みていました。このような対応も決して間違いではありませんが、「探す間、僕も一緒にそばにいて良いですか」と声をかけた選手は後にも先にも大根さんだけでした。
最後に「そろそろ出発しましょうか」と声をかける大根さん。
“連れて帰る”のではなく、岡本さん自らが“デイサービスに戻る”ことを選択してもらうよう誘導することができた唯一の選手でした。
全選手の競技が終了し、結果発表の時間が迫ってきたときのひとこま。
各選手が安堵の表情、後悔の表情、達成感の表情が
「他の選手も凄くスキルが高かったから、来年リベンジします」と大根さん。
結果発表
午後3時から始まった選考結果発表と表彰式。
各分野から、最も優れた技術を披露した介護士に送られる「優秀賞」と、優れた技術を披露した介護士に送られる「奨励賞」の各2名が選出されます。
そして、注目の認知分野であり、その中でも激戦となるAチームの入賞発表となりました。
ドキドキ…
ドキドキ…
参加したことに意味があるんだ…
ドキドキ…
そして、、、
見事!!
最も名誉ある「優秀賞」に大根さんが入賞しました!!
賞状とトロフィーの授与式。
本当におめでとうございます!!
入賞者との記念撮影。
ズームアップすると…
表彰式で、審査員の方から選出のポイントについて総評がありました。
印象に残ったお言葉がこちら。
「介護技術において教科書に正解は載っていない。何故なら、相手は生身の人間だからです。表出した症状に対して、どうするかを考えることが常になっていないだろうか。
今日入賞した選手は、表出した症状そのものではなく、その前提にある『その人』を見つめ、寄り添うことができた介護士です」
本コンテストを通して私たちが証明したかったもの。
「入居してくれた方々を幸せにする力を私たちは持っている」ということ。
傲慢にならず、でも卑下することなくプライドをもって前に進むことを大根さんが後押ししてくれた。
「まずはちょっとした勇気」
その先には、晴れやかな自信と更なる成長の可能性がみえた。