2023.12.02

社内転職
~介護からビジョナリー、水面下のあれこれ~

介護現場からビジョナリー企画部へ異動した筆者が見たもの、感じたもの。 異動というより、もはや転職? 同じ会社なのに、場所が変われば世界の見え方も変わるようです。

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~介護からビジョナリー、水面下のあれこれ~
Summary
  1. はじめに
  2. 名画は○○を避けている
  3. ○○が持つ印象を活かす
  4. 見ただけでは、見抜けない?

はじめに

出勤前の更衣室。
「今日腰痛いんだよね~、ベッドから車いすへの移乗をお願いしてもいい?」
というのはよくある光景で、
夜更かしのツケか、連勤の疲れか、子育てとの両立か、
全員がうっすらと体調不良な

(気分爽快!元気100%!という奇跡のような職員も稀にいますけどね。)

 

現場に出れば、そんなやり取りをしていたスタッフは
体の辛さなんて感じさせない笑顔でてきぱきと動き回っていて、

当たり前ではありますが、この姿もおもてなしの一種だなと思ったことがあります。

水面下の“あれこれ”をお客様に感じさせないこと。

 

―――――
先月、そんな介護現場からビジョナリー企画部(略:ビジョ部)に異動しました。
この部署が作っている内装、ウェブサイト、パンフレット……
今までは既に完成されたものを見る立場だったので、新着のお知らせを見かけては
「へ~、次はこんな建物が」とぼんやり思う程度でしたが、

異動してみて思うのは、何気なく手に取っていたそのパンフレットの一枚の写真のために莫大な手間がかかっているということ。

お化粧や身支度しかり、“あれこれ“は本来人に見せるものではありません。

ビジョ部的には制作過程と言いましょうか。

完成されたものからは一切香ってこないけれど、それでも確かにあったはずの試行錯誤の痕跡。その面白さを知った今、いくつかご紹介できたらと思いこれを書いております。

今回のテーマは『各ホテルの宣材写真』。

 

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異動して3日目。

上司のO田さんは今あるすべての施設のパンフレットをどっさり持ってきました。

「これ、参考になるかもしれないから」

ナースコールの鳴らない、お昼時の静寂な弊社のフリースペース。まだ何も業務についていなかった私は、介護現場ではほとんど無かった“手持ち無沙汰の時間”に耐えられず、そわそわ、落ち着きません。とりあえず仕事している感でも出すかと、パンフレットをパラパラめくっておりました。

―――――

 

半年ほど前、研修でパリに行く機会を頂きました。

私、残念ながら美術はさっぱり。でもせっかく芸術の都パリに行くのだから、ルーブル美術館を楽しむために知識があった方が面白そう!!と思い手に取った本がありました。

ダ・ヴィンチ、ラファエロ、ルーベンス、

ベラスケス、フェルメール、ゴッホ、セザンヌ――
超有名なあの名画、知られざるあの傑作、
どう見たらいいか迷う抽象絵画、20世紀を代表する写真まで――
名画と呼ばれる絵画には、名画たる理由がある。

秋田麻早子『絵を見る技術 名画の構造を読み解く』2019年

ホテルのパンフレットを読み込むうちに、この宣材写真って

この本で紹介されていた名画と共通点があるのでは?
そんなことがふと頭をよぎりました。

名画は○○を避けている

画家は、見る人の視線がなるべく長く絵の中にとどまってほしい
と思って描いています。そこで、人間の性質を上手く利用して
眼を引きつける要素を組み合わせるのですね。

その一つが、角。

人間の眼は四角とか三角とかの形を一瞬で認識できますが、それは角が眼の注意を引きつける引力を持つから。ただ、視線が角に吸い寄せられていくと、そのまま画枠の外に出ていってしまいます。そこで、優れた絵は画面の角に引っ張られる視線を絵の中央に戻すために、角の引力をそぎ落としているものが多いのだと、この本を読んで知りました。

左:ラファエロ『ガラテアの勝利』(1512年)

右:ジョン・コンスタブル『主教の庭から見たソールズベリー大聖堂』(1823年)

どちらも、主役となる中央部分を囲うような構図になっています。

葉山うみのホテルのトップ写真を見てみましょう。

これも、グリーンや1段下がった天井が角をカバーし、そぎ落としています。
実は本来、この場所に植栽はありません。写真としての完成度を優先させるために、あえてグリーンの位置を変えています。でもそのおかげで、写真中央の流木のシャンデリアがより引き立っているような気がしませんか。

○○が持つ印象を活かす

絵には「構造線」と呼ぶべき柱となる線があります。簡単に言えば、絵の芯。

縦は立っている感じ、横は寝ている感じ。斜めはその中間で動きのあるような印象をもたらします。

bar hotel箱根香山のthe barを違う角度から撮った写真で見比べてみましょう。

バーカウンターを正面から撮ると、13mものバーカウンターの長さが強調され、横の構造線が目立ちます。

静謐で落ち着いた夜。耳を澄ませば千条の滝の音が遠くに聞こえてきそうなほど、空気がしんと澄んでいる気がしませんか。

このバーを斜めから撮ると、いかがでしょうか。

状況はさほど変わらないのに、斜めの構造線が強調されることで、奥行きが出ます。
今にもお客様が扉を開けて、こちらにいらっしゃるような“動”の気配を感じませんか。

ホテルの写真は広さをしっかり写すために広角で斜めから撮ることが多いのだとO田さんに教わりました。

ただ、この場合はバーカウンターを真正面から撮った1枚目の写真の方が、bar hotel箱根香山の余韻が香り立ってくるように感じます。もしお近くにパンフレットがあれば、是非手に取ってご覧ください。

bar hotel箱根香山の公式HPはこちら

 

 

介護施設の見学であれば、入居前のお客様に施設の雰囲気を伝えることができますが

ホテルの宿泊は試すことができません。
お客様が様々な比較サイトを見たときに、決め手の一つとなるのが写真ですから
建物が持つ魅力を残すところなく伝えるために、撮る人や角度、時間帯を変えて写真を撮り、暗中模索でたどり着いたものが、今ある制作物です。

見ただけでは、見抜けない?

ニコニコしている職員の腰痛は側から見ただけでは見抜けないのと同じく、
写真に隠された意図も、なんとなく眺めるだけでは気づかなかった!という方もいたのではないでしょうか。
これもある意味、おもてなし?
ビジョ部の水面下に潜ってしまった私は、その深さと広さに慄きながら、溺れていく真っ最中なのでありました。
おわり
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