不動産仕入れ担当、ホテルを仕入れる
「『bar hotel』というブランドを都内でも展開していきたい」という会社方針を聞いた。
不動産の仕入れ営業の私からすれば、この上ないチャンス。ただ、買おうと思って買えるほど世の中そんなに甘くはない。不動産仕入れは100件の情報があって、1件買えるか?買えないか?の世界である。とにかく物件価格が高く、事業収支が合わないのだ。
月日は流れ、2020年浅草で一件の新築ホテルが竣工を迎えていた。
まさに中国で騒がれていた新型コロナウィルスが日本でも話題になり始めた頃であった。このホテルの当時の運営者は、インフォメーション・約款から備品に至るまでを揃えていたが、同年8月には訪日外国人旅行者数は前年比99.7%減の8700人になっており、開業延期を余儀なくされた。
出口の見えないコロナ禍で、このホテルの所有者は諸々の事情により、2022年10月頃ホテルを手放すことを決定。売買入札が行われることになった。
「買えなくていい!」
入札にあたり、検討を始めた。当たり前だが市場調査が必須である。地図に周辺相場や競合になりそうなホテルをプロットする。たいして広くもない地図に、ありすぎるホテル。浅草には競合がひしめきあっている。エッジの効いたホテルで無いと生き残れないのが想像にたやすい。
仕入れ営業担当は会社に対して物件の魅力をアピールする。
このホテル目の前は三社祭の神輿のルートになっているだとか、
隅田川花火大会の打ち上げ会場がすぐ近くだから、屋上は特等席になるだとか・・・
後に、三社祭りの神輿のルートは毎年変わることや、隅田川花火大会の打ち上げ場所はすぐ近くだったが、実際の花火を見てみると目の前のビルで見切れ、想定していたようなまんまる花火が見れなかった時は、冷汗がでたのであった。
売買入札が近くなり、何度も打合せを重ねるにつれ、仕入れ担当の私はのめり込んだ。「買いたい」思いはどんどん強くなった。
ただ、役員はいたって冷静。
グループCEOに至っては、『買えなくていい』とさえ言っていた。
いざ、入札!
入札実施の2022年11月。
日本国内ではまだ、コロナ感染者の増減報道が繰り返し行われ、5類移行に至ったのは翌年2023年5月とまだ先であり、文字通り先行き不透明感が否めなかった。
そのため、当該物件の入札は、参加プレーヤーが少なかった印象である。
ただ、シマダグループはコロナ禍においてもホテルオペレーションを継続して行っていたため、外国人観光客の増加が顕著であることや、今後の見通しを敏感に感じ取ることができ、購入に乗り出すことができた。
開札の後、担当者から「一番手です。おめでとうございます!」と連絡をもらった際には、CEOの『買えなくていい』の言葉が反芻し、複雑な気持ちであった。
ここに書けないような葛藤も、あまた、あまた、あまた、あるのだが、それはそれ。
開業計画
ホテル購入後の打合せは、仕事とはいえ本当に楽しい。
名前【SAKE Bar Hotel ASAKUSA】は第一回目の打合せで早々に決まった。
その後も、エッジの効いた唯一無二のホテルで無いと生き残れないというのが前提となる。
打ち合わせで出たアイデアたち
・110年の歴史ある酒蔵蔵元直営の大吟醸飲み放題
・チェックインで通行手形のように「枡」を配る
・BARカウンター上部にしめ縄
・米と水、おむすび、特大おむすび。
・100%インバウンド、館内全て英語表記はもちろんドル表示?
・宿泊者にお灸をすえる?折り紙、着物、日本文化の体験を。
パワーワードがあり過ぎて、どれを拾っていいかわからないほど。
新たな発見と勉強の連続である。
ただ、開業に向けて、準備が進めば進むほど、建築担当や運営担当がメインになっていき、仕入営業担当の私はどんどん蚊帳の外に置かれていく。
それでも携わっていたいから、定例会議の議事録を取ってみたり、従業員休憩所や倉庫の賃貸仲介をしてみたり、浅草界隈のイベントレポートをしてみたり、町内会へご挨拶をしたり、「もう要らないよ」と言われないように、必死にしがみついているのである。
我ながら、とても健気だ。
間もなく開業
そんな【SAKE Bar Hotel ASAKUSA】はティザーサイト(予告のためのサイトだそうだ)が立ちあがり、開業が2023年11月30日に決まった。
新規ホテルOPEN前の恒例となっているが、今回も関係者にて試泊が行われる。
21室しかないホテルに、今のシマダグループの全体社員数を考えると、自分がメンバーに入れるのかちょっとだけ不安。ただ、さすがにこんな記事を書いている手前、選ばないわけにはいかないだろう。
また、ホテル業界出身で、とても口うるさい、とても繊細でシビアな指摘をする妻もいるので、そこも込みで、間違いなく試泊できるはずである。
その後は、是非、「bar hotel箱根香山」のように、一介の営業担当には手の届かない遠い存在になってくれたら、不動産仕入れ担当の立場からすると、こんなに喜ばしいことはない。