仕事と遊びが、同じ次元で混ざり合う。
目をパチクリとさせたのは、外部のグラフィックデザイナーでした。
「えっ!? ほんとに行くんだ、と思って」。
それはシマダにとって肝いりの企画「うみのホテル」開業に向けて、まさに追い込み真っ最中。しかも施設のロゴサインの入稿直前!というタイミングで、シマダグループの社長以下、みんながいたのは……ロシアのサンクトペテルブルク。そう、みんな社員研修旅行に旅立ってしまっていたのです。しかも4泊6日。
「今思えば、ヒヤヒヤするのも醍醐味だったなと思います」と言ってのけるのは、「うみのホテル」の社内デザイン担当である、S.H.ホールディングス株式会社の細川栞さん。
「ちょうどみんなで宴会をしている時に私が入って、入稿するサイン案を社長に見せて『これでいきますからね!入稿しますよ!』と承諾を得ました。驚いたのは、そこで誰も「今は仕事のことはいいだろう」とは、ならないんですよね。それどころか社長も『そこは80%のサイズにして』とか、ちゃんと指示を出しているのも面白かったです(笑)」
仕事と遊びを切り分ける、というよりも!仕事と遊びが同じ次元で混ざりあう。まさにワークライフバランスならぬ、“ワークライフブレンド”。まさにシマダらしい文化が、このエピソードから浮き彫りになるのでした。
まず聞かれるのは「パスポート持ってる?」
さて、あなたは社員研修旅行と聞いて、何を思い浮かますか?面白そう?はたまた面倒くさそう?
シマダグループの社員研修旅行がスタートしたのは、昭和40年。当時の社員20人ほどで伊豆・熱海へ、いわゆる慰安旅行でした。ところが平成8年の台湾から、行き先は海外にシフト。フランスやスウェーデン、ロシアなど。自社の旅行事業のリソースもフル活用し、「家族旅行ではなかなか行けない、行かない」旅先をチョイス。100名を超えた旅をするのが、年に一度の一大恒例行事となっています(2020年〜は中断)。
「なので、新入社員が来るとまず聞かれるのが『パスポート持ってる?』なんです」
海外になって強まったのは、研修の色合いです。ホテルや飲食店、サービス事業を多く手がけるシマダでは、社長の意向もあり、その街の格式あるホテルに宿泊。さらに滞在中に一度は、有名レストランでの食事会も恒例に。ここぞとばかりにみな、フォーマルな格好をして臨みます。
「ホテルのデザインチームの中に入って現地研修を受けるのですが、バリ島のウブドにあるネットで検索しても見つけられないようなホテルに行けて、すごく刺激的でした」
と言うのは、同社クリエイティブディレクターの太田幸代さん。前出の細川さんに至っては
「入社して初めての社員旅行はパリだったんですよ。しかもセーヌ川でのパーティーとか、自分でお金ためてもなかなかできないような経験ができて。若者としてはお得感ありましたね」
振り切った遊びの経験こそが、振り切った仕事につながる。まさにシマダグループらしい考えなのでした。
新入社員と社長が同室、の理由。
そしてもうひとつの……いや、これがメインとも言えるのが、社員同士の交流。とりわけシマダグループは、飲食、ホテル、介護、旅……いろいろな部署、いろいろな事業の掛け合わせでものづくりを行い、シナジーを生むことが企業文化ゆえ、つながりを持つことはとても重要なこと。しかも会社の規模が大きくなるにつれ、なおのこと意識的に行う必要がある。
ということで部屋は、部署も年齢も役職もバラバラの2〜3人ずつで割り振られます。なので、※社長と新入社員が同室!ということも普通にありえます。
※2023年現在は気の置けない者同士を同室にするよう、変更となっています
さらにレストランでの席順もしかり。なかなかコミュニケーション能力を問われる旅なのです。
「旅の間、ずーっと誰かと話してますね」と言うのは、ビジョナリーデザイン室の浅野沙織さん。
「一番のねらいは旅という、いつもと違う環境下で話すこと。会議で話すのとは違いますよね。とくに入社したての頃は、1対1でちゃんと話せるいい機会。勉強にもなりますし、経営者との距離が近い。スーツを脱いで、海辺でビールを飲みながら、他愛ない話ができる。こう言うこと、なかなかないよなぁと、いつも思います」
そんな浅野さんも、最初は「旅は仕事ではなく、個人で行きたい派」だったそう。
「会社のみんなとごはんまで一緒なのは、最初どうかな?と思ったんですけど、行ってみると、ふつうとは180度違いました。いわゆる『会社の人』ではなく、安心感のある仲間同士で行くような感覚なんです。今は『次はどこに行くのかな?』楽しみになるほど。クセになってます」