オーベルジュですか?
「オーベルジュ・・・・ですか?」
出張先の軽井沢で「お勧めのお店はありますか?」と得意先の奥様に質問したとき
オーベルジュ・ド・プリマヴェーラのフランス料理が絶品だと勧められた。
オーベルジュとは地方にある宿泊施設を備えたレストランのことだ。その土地ならではの食材を使用した本格的な料理を楽しめるのが特徴で、滞在そのものが一つの目的となっている。ちょうど、一泊するつもりだったので電話すると、運良く予約が取れた。出張とはいえ、この際は少々贅沢をしてみようと思う。
軽井沢といえば「風立ちぬ いざ生きめやも」(堀辰雄『風立ちぬ』より) 軽井沢を舞台に限られた日々を過ごしながら幸せを追い求める二人の物語には引き込まれる。しかしその有名な「いざ生きめやも」は誤訳らしい。オリジナルはフランスの詩人、ヴァレリーの詩「Le vent se lève, il faut tenter de vivre」で「生きてみよう!」が正しい意味だという。≪生きめやも≫は「やることができるだろうか、いや、できないだろう」といった諦めの表現になるという。そんなことを考えながらお店に向かった。
軽井沢駅から10分ほどのところに風光明媚な町に佇むフレンチレストラン「オーベルジュ・ド・プリマヴェーラ」があった。さわやかな5月の薫風の中、目を引く緑の木々が新鮮に映った。
健康診断を気にするときではない
「いらっしゃいませ!」という上品な声と笑顔が素敵なウエイターに出迎えられた。
すぐにテーブルへ案内され、店内は落ち着いた音楽と美しい花々に囲まれていた。
メニューを手渡されると、最近は視力が落ちてきていて目を細めなければ見えない。
食事は食前酒に添えて出される軽い一品から始まる。まずはエスカルゴのエクレア仕立て。「エクレア」って一体何だろうと思いながら口に運ぶと、外側はパリッとしていて、中はしっとりとした優しい食感。そして中に詰まったエスカルゴの風味は至極のもの。添えられたフォアグラのソースがエスカルゴの風味を更に一段と引き立てる。これはちょっと珍しいなと感じつつ、ソムリエが選んでくれた「CHASSAGNE-MONTRACHET」のフレッシュさとフルーツの風味が料理を引き立ててくれた。
次に運ばれてきたのが見た目にも美しい白い固形物。「これ、ローソクですか?」と尋ねると、ウエイターはにっこりと笑って「バターです」と答えた。しっとりとしたコクのあるバターはパンによくあい、バゲットもお代わりしてしまった。そう言えば来週、健康診断があったような気がするが、今はそれどころではない。
続いてモリーユ茸のフランを。その弾力のある食感と芳醇な香りが更なる高みへと誘う。特製コンソメスープと一緒に取ることで、口の中はリフレッシュされ、新たな味わいに備える。
その次に登場はサクラマスのミキュイ。オランデーズソースと共に、鮮やかな春野菜が添えられている。細かな皮目からは香ばしさが溢れていた。サクと噛むと、魚の旨味が口の中に広がり、その後オランデーズソースがそれを包み込んでいき、ハーモニーが広がる。
最後のメインは和牛フィレ肉のポアレ。ボルトレーズのソースを纏った和牛フィレ肉は極上の味わい。肉そのものの旨味を活かし、ボルトレーズのソースがそれを見事に引き立てる。バランスが絶妙な一皿で、思わず目を閉じる。その後に出された筍の塩釜焼は素材の味そのものを楽しむ、ピリッとした塩味が効いてまさに春の風味そのものだ。
ワインは食事をさらに華やかにしてくれる。メニューに合わせたワインを提供してもらう。また一口、そしてまた一口。豊かな香りが口いっぱいに広がり、食事の味わいを補完する。普段ワインをあまり嗜まない私でも十分に楽しめる。
フィナーレはブランマンジュとふきのとうのアイスクリームの組み合わせ。
その一口目から淡い香りと絶妙な甘さが口の中で溶け出す。食後の自家製のハーブティーは美味いものばかりで興奮していた私の心を落ち着かせてくれた。
静かな時間が過ぎ、夜が更ける。おっさん一人で不安だったがスタッフの皆さんも心地よく和やかに接してくれる。何かいいなあ、こういう雰囲気って食事を美味しくしてくれるんだなあ。最後にシェフが挨拶にきてくれた。若いがしっかりとしている雰囲気だ。
すばらしい食事に対しての礼を述べると彼女は喜んでくれた。
私の“オーベルジュ”を探して-フランスでの57日間- | シマダグループ (shimadahouse.co.jp)
食事もワインも最高だった。豊かな時間を肴に、レストランを後にして隣の宿泊施設へと戻っていく。ほろ酔い気分でそのまま宿泊できるのもありがたい。
ワインが回ったせいなのか、シャワーを浴びたらベッドでグッスリと眠ってしまった。
さわやかな目覚め
翌朝目覚め、朝食に向かった。フレッシュな食材と美味しそうなパンがお出迎え。
ゆで卵はエッグスタンドで立てた上方だけを取り払って、スプーンですくって食べる。
「ルパン三世カリオストロの城」で貴族のカリオストロ伯爵が食しているアレだ。
日本ではゆで卵をお皿やテーブルの角に「コンコン」とぶつけるのが一般的だが
どうやらこれはマナー違反らしい。
爽やかな空気の中で堪能した朝食もまた、最高の味わいだった。
チェックアウトを済ませて、「オーベルジュ・ド・プリマヴェーラ」を後にするのは、少しさみしい。次にどうするかを考えてみると、観光もよいが、草津温泉まで車で1時間程度とのこと。せっかくここまで来たのだから、温泉にでも浸かってみることにする。どうせ、一人旅は自由だ。
それにしても何と素敵な時間だったのだろうか。新鮮な旬な食材が五感をゆったりと満たし心体も癒す。都会の喧騒に疲れ果てた私に“生きてやるぞ!”という活力を与えてくれた。
名残惜しいが、軽井沢を後にする。また、来たいものである。
ルネサンス期の名画「プリマヴェーラ(春)」を思い起こさせるような、軽井沢は今、春爛漫だ。
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