寿司職人とバーテンダー
大学時代は学費を自身で支払っていた。新聞配達や飲食業などのアルバイトをしながら将来は「カウンター越しでお客様と接客をしたい」と漠然と考えていた。
そんな時、仕事として頭に浮かんだのが「寿司職人」と「バーテンダー」
できるだけ早く一人前になりたい。寿司職人は時間がかかると思い、目指したのはバーテンダー。手当たり次第バーの面接に行った。面接はバーテンダーマニュアルを一冊読んでからお店へ。知識はほぼ無いに等しかった。
随分無茶、、、ではなく行動的な話だ。
ある店で面接の時に「“ピート香”というのを本で読んだんですがよくわからなくて」
と質問したら “一杯飲んでいきなよ”口数の少なかった店主がそういってくれた。
その一杯飲ませてくれた中野の店がバーテンダー人生の始発駅。1杯800円程度で客単価3,000円ちょっと。19時~朝4時まで営業。おかげで大学の授業にはほとんど出席しなくなった。
技術は独学でその店で取得した。“習うより慣れろ”バーの世界は体育会系で縦社会でもありルールやマナー・上下関係は厳しい。接客中酔ったお客様からグラスを投げつけられることも。それでも1年経たずに一人で店を回せるようになった。すると「若い(20代前半)やつが店を一人で回している」と噂をかぎつけてお客様がやってくる。そんな狭い界隈の中で「俺が(私が)お前を育てる」という感覚だ。
バーの世界は独特だけど「お客様に育ててもらう」というのは今でも変わらないと感じる。
中野から銀座 そして箱根へ
仕事は楽しくて仕方なかった。中野の次は紹介で銀座の店へ。
ジントニック1杯3,000円。シャガールの絵が飾ってあり、黒を基調にしたシックで重厚感あふれる店内。カウンターも牛革張りだ。世界で最もバーの多いこの街では数多くのバーファンが毎夜訪れる。
銀座の世界は刺激的だったけど、一般のお客様にとって敷居も高い。
そこに少し違和感があった。目指すのは客とバーテンダーの距離が近い店。
人の温かさを感じたい時に行きたくなる憩いの場のような場所。
「自分がいる場所はここで良いのか」何度も自問自答をする。
様々な経験をした後36歳で彼はシマダグループの箱根香山へ辿り着く。
「barに泊まるってどういうこと?」初めて見た時そう思った。
「barに泊まる」という着想の裏側にあったもの。「bar hotel 箱根香山」誕生秘話。 | シマ報
実際に入社してみると「正直これは難しい」という状態。
開業して1年、まだ色々な事が試行錯誤。“barに泊まるbar”がこれでいいのか?
高い宿泊費に見合う価値がないのではと。コンセプトやハード面は素晴らしい施設と感じたがソフト面が「これじゃだめだ」というより「もったいなくてしょうがない」
そこから色々変えた。メニュー・棚卸表・サービス・オペレーション。お客様はたくさん来ていただいているのに、逃すのはもったいない。“barに泊まるbar”というコンセプトをしっかり固める事を今やらないと駄目になる。そして良いものになると確信があった。
良い意見であれば、どんどん取り入れる。入社したのはそんな懐の広い場所。
「自分はバーテンダーだから」と斜に構えず、やりたいことがあるのであれば手を挙げた方がいい。くすぶっていたら声を出したらいい。『想い』をもって箱根香山という場所を少しでもお客様と距離を近くにするために。
若い人たちに伝えたいこと
「若い人たちには是非、バーの世界に飛び込んで来てほしいですね。
バーテンダーとしての生き方に『想い』を持てる人はきっといると思います」
若いバースタッフから「お客様が何を望んでいるかわからない」と相談を受ける。その時は「相手にどうしたら喜んでもらえるかを考えて行動すれば自然とわかるようになるよ」と答える。『想い』を持っている人がサービスをすればきっと喜んでもらえる。バーは時間と空気を楽しむ場所なのだから。
バーでは何を売っているか。バーという時間と空気である。
これを作っているのがバーテンダーなのだ。時間・空気・バーテンダー。
良いグラスにはこの3つが入っる。
「Bartender」 原作: 城アラキ 、漫画:長友健篩
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花には花言葉があるようにカクテルにもカクテル言葉がある。
ジントニックは『強い意志』ギムレットは『長いお別れ』
ホワイトレディは?と馬上さんに聞くと
「『純心』です。カクテルの白い色は純白・純粋な心を意味しているんですよ」
そう微笑みながら教えてくれた。
シマダグループには3つのBarが存在する。
bar hotel 箱根香山・神楽坂レトロなBARとホテル・六本木のBar&Restaurant COCONOMA
それぞれの場所で 曇りない純心なバーテンダーとしての『想い』を伝えるために
彼は日々忙しく3つの施設を回っている。