表紙のこと

まずは表紙のお話から。「より多くの人に届けたい」「新たな風を感じたい」という想いから、今号も前号に引き続き公募にしました。
独特な質感が表現された表紙を見て、不思議に思った方もいるかもしれません。これは、神奈川県横須賀市の岬・観音崎で拾った流木を、応募者自身が描いた作品の上に置いて撮影したものなのです。
今号では葉山の特集を組んでいたので、流木を拾った場所が近いエリアだったことはちょっとした偶然でした。
さらに、「作品には“経年美化”への想いを込めました」という応募者からのコメントをいただき、二度目の驚き。 実は企画会議でも“経年美化”という言葉が出ていたのです。
偶然が重なり、まさに今号のために作られた一枚。
この流木も、なんだか米の形に見えてきます。裏表紙はタイ米でしょうか。
……ここまで書くと、いかにも順調に進んだ制作のように見えるかもしれません。でも、実際はそんなことはなく、少し迷子になりながらゴールを目指すような制作でした。 そのあたりの記録も、少し書いてみようと思います。
入稿まであと141日
音声はコチラ
前号が2026年1月に発行され、同じ月に早速第6号の企画案出しがスタートしました。
初回の打ち合わせで「最近気になるもの」として出た話題は、なんともふんわりとしたもの。
「海底の6キロ下にレアアースが眠っている」
「マグマ大使はビッグで、いかつい」
※手塚治虫の漫画作品▷マグマ大使
「フランク・ミュラー監修の邸宅が目黒にできた」
「22世紀、米はどうなっている?」
「兼高かおるや黒柳徹子の旅」
※テレビ番組「兼高かおる世界の旅」は紀行番組の金字塔と呼ばれる。
これが後にどう完成形につながっていくのか、この時点ではまだ誰もわかっていません。
あと65日
たくさんのアイデアから最終的に絞られたのは、「次の旅先は、宇宙。」というテーマでした。しかし、企画当初は「宇宙・深海・地底」と、もう少し幅広いものだったのです。どちらにせよ、正直ちんぷんかんぷん。一から情報収集をすることになりました。
調べていく中で出会ったのが、「チューブワーム」という深海生物。太陽の光が届かない場所で、化学物質をエネルギー源にして生きているという、なんとも規格外の生き物です。

チューブワーム
▷参考記事:深海の熱水噴出孔の岩をめくったら多彩な生物がいた、驚きの発見 | ナショナル ジオグラフィック日本版サイト
チューブワームについて語られていた動画を見つけ、これは面白い!と思っていた矢先、デザイナーさんから宇宙の絵本をおすすめしてもらいます。地元の図書館で借りて読んでみると、なんとその監修者が動画に出ていた人と同じ人!プチミラクルで編集部は湧きました。
あと45日
宇宙の他にも、旅の行き先として人気の「神奈川県葉山エリア」を特集することになりました。その参考資料として、編集部員Mさんがネットで購入した「日影茶屋物語」を全員で回し読み。江戸時代から続く老舗料亭「日影茶屋」の歴史や人間模様を描いた一冊です。ミーティングを重ねるたびに葉山関連の歴史に関する書籍を共有するようになり、取材の頃には全員すっかり歴女になっていました。

今も、社内の本棚にひっそりとたたずむ。
あと32日

全体像が見えてきた安心感と「本当に完成するのだろうか」という不安が半々……。
あと24日
制作に対する膨大なフィードバック。
「これは本当に間に合うのだろうか……」と不安になる自分に上司がひと言。
「あと3週間! 全然いい感じ。これまでより進んでる!」
「これでいい感じなのか」と半信半疑でしたが、その言葉を信じるほかありません。
そんな中、所属部署の業務報告に、こんな一文が。
今日はMさんとEさんが「こめびと」の件をあれこれディスカッションしているのが聞こえてきました。二人ともアイデアを絞って苦悩しつつも楽しそうでした!
京ことばだと「うるさい」も遠回しにこう言うらしいので、深読みすると少し不安になります。
あと4日
毎年このくらいの時期に会社の研修旅行「まなたび」で海外に行きます。今年の行き先はなんとインド。月末に控え、社内で頻繁に聞こえてくるようになった言葉があります。
「インド前に」。
「インド前に確認」「インド前に入稿」と、あらゆる制作の締め切りがインド基準になっていきました。「こめびと」も例外ではなく、当初からインド前入稿を目指していたので、この期間は特に集中して取り組みました。インドで「こめびと」のことを考えたくない、という一心で。

プロジェクトのスケジュールにも合言葉のように記入。
さらにこの日、ほぼ完成したと思われていた「脈打つ旅」という、人生を旅に見立てたページのデザインが大きく方向転換しました。
【before】

【after】

イラスト主体だったページを写真中心へと大胆に変更。せっかく作ったものを壊すのは勇気がいりますが、より良くなるならば迷わず作り直す。その判断の連続でした。 まさに「破壊と創造」。
……なんて話していたら、「破壊と創造」を司る神様がインド神話のシヴァ神であることが発覚。
シヴァ神の役割における「破壊」は、単なる終焉ではなく、浄化と再生を意味します。古いものを壊すことによってのみ、新しい創造が可能になるという循環的な世界観がインドには根付いています。
私たちはいつの間にかインド哲学を実践していたようです。インド前にインドを先取りするとは、これいかに。

ガンジス川のほとりにたたずむシヴァ神
前日
入稿予定日の前日。
「こめびと」に関してやり取りをしているチャットには「修正完了しました!」の文字が並び、そのたびに、くるくる回る両手をバンザイするリアクションがつくようになりました。(確認すると、だいたいMさん。)
疲れているはずなのに、ほんのりテンションが高い編集部。

こちらのアイコンがクルクル回り、癒されます。
入稿。テーマに興味がない編集部員
入稿は金曜の予定でしたが、少し伸びて、週明け月曜の朝になりました。
これまで当日夜に駆け込みで仕上げることになるだろうと想像していたのですが、実際、修正はひと通り終わり、月曜の朝は淡々と入稿データを整えるだけでした。
最後は驚くほどあっさりと、第6号は形になりました。
この仕事では、さまざまな業種と関わり、多種多様なテーマを扱います。そのたびに試されるのが「おもしろがる力」です。
とはいえ、最初からすべてのテーマに前のめりになれるわけではありません。
宇宙についてのページの打ち合わせ中、会長がMに向かってぽつりと一言。
「多分、Mは宇宙に興味がないんだよなぁ……」
図星だったようで、あとから本人は「だって遠いんだもん〜!」と弁明していました。距離の問題なのか? と私は思いましたが…。
そんなMさん、ある日、宇宙について深く学ぶため国際宇宙ビジネス展「SPEXA(スペクサ)」に行きました。すると、帰ってきた日の業務日記はまさかの1,300字超え。(通常の約6倍)見たこと、感じたこと、気になったことが止まらない様子で、数日前までのMさんとはかけ離れた熱量に私は圧倒されました。
興味は最初からあるものではなく、向き合ううちに育っていくものなのかもしれません。
制作を終えて
AIが当たり前になり、情報のほとんどがスマートフォンで手に入る時代。そんな中、紙の雑誌を制作していることを、ときどき不思議に感じることがあります。
それでも、ページをめくるときのワクワクや、思いがけない記事との出会い、ふと気になった時にパラパラと読み進める楽しさは、紙だからこそ生まれる体験なのだろうと思います。
「こめびと」は、シマダグループの施設を訪れた方が、自由にめくりながら、新しい発見や興味に出会える一冊でありたいと思っています。デジタルが進化し続ける今だからこそ届けられる、そんな価値を感じながら、第6号を作り上げました。
手に取ってくださった皆さんにとって、小さな「旅」のきっかけになればうれしいです。
▷「こめびと」電子ブックはこちら
音声はコチラ
音声版のシマ報です!
ぜひ電車に乗りながら、家事をしながら…以下のリンクよりお聞きください♪
【stand.fm「#44インド旅を先取り!?破壊と創造のドラマ -「こめびと」第6号のウラガワ」】
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